津地方裁判所 昭和60年(行ウ)8号 判決 1991年9月26日
三重県四日市市海山道町1丁目155番地
原告
稲垣建設株式会社
右代表者取締役
稲垣敏秋
右訴訟代理人弁護士
川嶋冨士雄
三重県四日市市西浦2丁目2番8号
被告
四日市税務署長 福田昌男
右指定代理人
佐々木知子
同
舟元英一
同
山下純
同
木村三春
同
都嵜清孝
同
竹本秀明
同
瀬古浩利
同
伊藤久男
同
松井運仁
主文
一 本件訴えのうち,被告が原告の昭和57年10月1日から同58年9月30日までの事業年度の法人税について昭和59年6月19日付けでした更正及び重加算税賦課決定のうち,所得金額6,921,519円を超えない部分の取消を求める訴えを却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が昭和59年6月19日付けでした原告の昭和57年10月1日から同58年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税についてした更正(以下「本件更正処分」という。)のうち所得金額1,123,151円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。
第二事案の概要
本件は,原告が,被告のなした本件更正処分について,これに付記された理由を認めつつ全く別個の経費の存在を主張して,自己の申告に係る所得金額を超えない部分を含むその一部取消などを求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は建築工事請負業を営み,その法人税の申告につき被告から青色申告の承認を受けていた(乙二)ものであるが,本件事業年度の法人税につき別表一確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ(乙一),被告は同表更正欄記載のとおり本件更正処分をした。
2 後記二争点2の脱税協力金を損金に算入せず,また,3の差額金が支払われたとの認定をしなければ,原告の所得金額は,13,678,151円になる(なお,原告の昭和57年11月分外注費のうち別表二の1「外注先/区分」欄記載の各外注先に対する同表「②左の内保留未払金」欄記載の各未払金合計5,000,000円(以下「保留未払金」という。)については,原告は別表二の2約束手形欄記載の手形の手形金のうち同表「保留未払金の支払に充当した金額」欄記載の金額を充当することによって本件事業年度中に支払いをしたが,右支払は帳簿外のものであるため,表向きは保留未払金として計上した旨主張し,被告は保留未払金の存在及びその損金性を認めつつ,それは同年度中は支払いがされなかったから未払金勘定に計上すべきであると主張するが,いずれにしても本件事業年度中の損金の額に算入すべきことについて当事者間に争いがなく,本訴の結論には影響しないから,争点としては掲げない。)。
3 原告は,昭和57年11月ころ,架空の外注費を費用として計上して昭和56年10月1日から同57年9月30日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)の法人税を脱税することを計画し,昭和57年6月7日付けで原因関係なくして別表三記載の各約束手形35通,額面合計38,095,000円を同表氏名欄記載の各外注先に対して振出交付し,支払期日にこれを支払ったうえ,少なくとも右手形金のうち別表二の2,五記載のものを除く合計22,857,000円を原告に返還してもらい,同人らに対して原告の脱税に協力したことの見返りとして手形金の概ね一割に該当する別表四記載の合計2,317,000円を支払った。
4 原告は,別表五記載の手形(以下「本件手形」という。)の手形金を,同表「備考」欄記載の各工事に際して同人らに支払うべき外注費について,工事の1m2当たりの金額(以下「単価」という。)を真実の契約金額より帳簿上過少に記載したうえ(以下「本件単価調整」という。),真実の契約金額と帳簿上の過少な金額との差額部分の支払いに充てたと主張するところ,原告の保管していた注文書,総勘定元帳,工事台帳等の帳簿書類の上では,すべて原告の主張するところの過少な単位を前提とした記載がなされており,本件単価調整前の真実の単価を記載した帳簿は存在しない。
5 原告は,本件事業年度分法人税の確定申告において,別表六記載の工事について,田村修三,中川稔及び加藤明夫に対し同表記載の各給料(合計12,144,787円)を支払ったとして,右金額を完成工事原価に算入しているが,右田村ら3名の者は原告の従業員としては実在せず,これらの者に対する給料の支払いは仮装のものである。
そこで,被告は,本件更正処分により新たに納付すべき税額1,100,000円(10,000円未満の端数切り捨て)に30/100を乗じて算出した330,000円を重加算税として賦課決定した。
二 争点
1 原告は,本件事業年度分法人税の確定申告において,その課税標準たる所得金額を6,921,519円としていることから,本件更正処分のうち右申告額を超えない部分の取消を求めることが訴えの利益を欠いて不適法となるか。
2 前記一3のとおり別表三氏名欄記載の各外注先に対して原告の脱税に協力したことの見返りとして支払われた金員を損金として計上することができるか。
3 本件手形の手形金が,本件単価調整による真実の契約金額と帳簿上の過少な金額との差額部分の支払いに充てられたものか。
第三争点に対する判断
一 本案前の抗弁について(争点1)
納税者が確定申告書を提出すれば,原則としてそれによって納税義務が確定するのであって(国税通則法16条),納税者が確定申告書の記載の錯誤無効を主張しうる特段の事情の存する場合は別として,納税者が自己の申告にかかる所得金額が過大であるとしてその是正を求めようとするには所定期間内に更正の請求(国税通則法23条,法人税法82条)をなすことが要求されており,右手続を経由していないときは,税務署長による増額更正のうち申告額を超えない部分は納税者にとって不利益な処分であるということができず,その取消を求める訴えは訴えの利益を欠き不適法であるというべきである。また,納税者が,異議申立てを棄却する異議決定に対する審査請求事件の審理の中で自己の申告にかかる所得金額が過大であると主張し,その際右主張についても審理されたとしても,これをもって右更正の請求に代えることはできない。
しかるところ,本件訴えは,本件更正処分のうち原告の申告した課税標準たる総所得金額6,921,519円を超えない部分についてまでその取消を求めるものであり,右部分の取消請求は,右に述べたとおり訴えの利益を欠き不適法であるから却下するべきである。
二 脱税協力金について(争点2)
原告が,昭和57年11月ころ,架空の外注費を費用として計上して前事業年度の法人税を脱税することを計画し,昭和57年6月7日付けで原因関係なくして別表三記載の各約束手形35通,額面合計38,095,000円を同表氏名欄記載の各外注先に対して振出交付し,支払期日にこれを支払ったこと,少なくとも右手形金のうち別表二の2,五記載のものを除く合計22,857,000円を原告に返還してもらい,右各外注先に対して原告の脱税に協力したことの見返りとして手形金の概ね一割に該当する別表四記載の合計2,317,000円を支払ったことは,当事者間に争いがないところ,脱税に協力させるために贈与した金銭は,本来の事業の遂行とは何の関係もない単に所得を隠すためのものでしかないから,損金(法人税法22条3項)には該当しないというべきである。
三 本件単価調整について(争点3)
1 本件事業年度の確定申告について,原告が青色申告の承認を得ていたこと,原告の保管していた注文書,総勘定元帳,工事台帳等の帳簿書類の上では,すべて原告の主張するところの過少な単価を前提とした記載がなされており,単価調整前の真実の単価を記載した帳簿が存在しないことは,前記第二の一1,4のとおりであり,原告の主張する本件単価調整に係る差額金の支払いはいわゆる簿外経費に該当するものというべきである。
ところで,青色申告の承認を受けた納税者は,大蔵省令の定める帳簿書類を備え付け,これに個々の取引を記帳して,その帳簿書類を保存することが義務づけられ(法人税法126条1項,同法施行規則53ないし59条),税務署長は,必要があるときは帳簿書類について必要な指示をすることができ(法人税法126条2項),右義務の違反に対しては青色申告承認の取消の制裁がある(同法127条)一方,青色申告にかかる更正処分には推計課税は許されず(同法131条),また,理由を付記しなければならない(同法130条2項)とされている。右諸法令は,青色申告の承認を受けた納税者の記帳した帳簿書類が適正正確であることを担保するとともに,これが適正正確であることを前提として納税者に種々の特典を与えたものであると解される。右の点からすれば,青色申告の承認を受けた納税者の備え付ける帳簿書類の記載内容は適正正確なものであり,これに記載のない必要経費は存在しないとの事実上の推定を受け,右経費の存在を主張する者において右推定を覆すに足りるだけの立証をすべき必要があるというべきである。
よって,原告には,その主張に係る本件単価調整による差額金の支払いの事実に対する不存在の事実上の推定を覆すに足りる立証する必要がある。
2 以下,右立証の成否を検討する。
(一)原告代表者の供述について
原告代表者は,当裁判所において,別表三記載の約束手形のうち本件手形の手形金を別表五「備考」欄記載の各工事に際して同表氏名欄記載の各外注先に支払うべき外注費について単価を本来の契約金額より帳簿上過少に記載し,その差額分の支払いに充てた旨供述するのであるが,次のとおり信用できない。
(1) 原告の主張ないし原告代表者の供述の変遷
イ 原処分調査時の供述
証拠(乙14ないし17,証人平生忠一,原告代表者平成元年4月27日付調書)によれば,次の事実が認められる。
原告代表者は,昭和58年5月ころ,原告の税務調査に当たった平生忠一に対し,サンライズ平針及び羽津北小学校の工事台帳(乙14,15)を示して,右各工事の追加工事の外注費の支払いのために別表三記載の35通の約束手形を振り出した旨の説明をした。
また,右平生が,安藤建設株式会社から原告に対するサンライズ平針の建築工事に係る注文書(乙16)等から原告代表者の右説明の通りであるとすると右各工事により原告に多額の欠損が生じることになることを発見して,さらに,原告代表者に説明を求めると,原告代表者は,同年12月,別表三氏名欄記載の各外注先から過去の下請け工事について相当額の赤字が出たのでその損失を補填して欲しいとの申し出があり,原告代表者がこれに応じてそれぞれ金額を決め手形で支払いをしたものであってサンライズ平針及び羽津北小学校の工事の追加工事の外注費の支払いであるとしたのは単なる帳簿上の操作である旨の書面(乙17)を被告に提出した。
原告代表者は,原処分の調査の時点では当裁判所において主張するような本件単価調整の主張を全くしなかった
ロ 異議申立て時の供述等
証拠(乙34,35の1ないし5,36,原告代表者平成元年4月27日付調書)によれば,次の事実が認められる。
原告は,前事業年度の法人税についての更正処分に異議の申立てをし,別表二の2,五記載の各手形はいずれも右事業年度において外注費として現実に支払いをしているので,損金の額に算入すべきであるとの主張をし,別表二の2記載の5名の外注先作成の工賃として受け取った旨の証明書を提出した。この際も,原告は,当裁判所において主張するような本件単価調整の主張を全くしなかった。
以上のとおり,原告の主張ないし原告代表者の供述は,本件手形の振出の趣旨目的という最重要部分について著しく変遷している。
(2) 原告代表者の当裁判所における供述の不合理性
イ 原告代表者の供述内容
原告代表者の当裁判所における供述の要旨は,以下のとおりである。
原告は,昭和57年11月ころ,前事業年度において利益が上がり過ぎたため,架空の外注費を計上して法人税の支払いを免れることを計画し,別表三氏名欄記載の7名の外注先に対し,本件手形を含む同表記載の約束手形35通,額面合計38,095,000円を作成し,同人らに脱税の趣旨であること,謝礼として額面の一割を渡すので残り9割を現金で返すべきことを説明して,各満期の一週間前ころに順次交付した。
しかし,同年12月には原告の資金繰りが悪化し一割の手数料を支払うことも大変な状態になったので,昭和57年11月分の外注費の一部の支払いを帳簿上保留したうえ,同年12月20日満期の手形のうち合計金5,000,000円分(別表二の2)を現実にその支払いに当てた。
昭和58年1月20日,2月20日満期の手形については,当初の予定通り手形金の約9割の返還を受け,謝礼を支払った(別表四)。
昭和58年3月20日,4月20日満期の手形については,原告の資金繰りが苦しく一割の手数料を支払うことも惜しいので,右手形のうち合計金10,238,000円分を本件単価調整のうえその差額分の支払いに当てた。
ロ しかしながら,右供述のとおりであるとすれば,本件事業年度においては,本件単価調整をして帳簿上の外注費を真実のものよりも少なく計上してその差額を裏金として支払うことになって,その部分だけ過大な所得を計上することになるから,その分の法人税を負担しなければならないことになる。これに比べると,当初の計画通り一割の手数料を支払って手形金の返還を受け,これとは別に真実の外注費全額を帳簿に計上してその支払いをする方が結局有利になるのであって,それにもかかわらず一割の手数料の支払いを避けるために原告代表者の右供述のとおりの処理をしたとすれば,その時点において原告の資金繰りが余程逼迫していたはずである。しかるに,原告代表者のその点に関する供述は,極めてあいまいで全く首肯しうるものでないばかりか,乙31によれば手形の決済資金には充分な余裕があり資金繰りに窮するような状況は全く認められない。
(3) 喜田としよの聴取書について
証拠(乙4の1ないし6,証人吉野満)によれば,今村康夫の内縁の妻で同人の収支関係の帳簿を作成していた喜田としよは,原告から架空の外注費合計10,000,000円を支払ったことにして欲しい旨依頼され,別表三今村康夫欄記載の5通の手形を取り立て,その後100,000円程度の手数料を控除した残りの全額を返還したことが認められる。
前記(1),(2)の事情を考慮すれば,原告代表者の当裁判所における供述は,右(3)の認定事実に照らして直ちに信用しがたいものといわなければならない。
(二)証人清水次郎の証言について
証人清水次郎は当裁判所において概ね原告の主張に沿う証言をしているが,次のとおり信用できない。
(1) 証拠(証人吉野満の証言により真正に成立したものと認められる乙42,証人清水次郎,同吉野満,原告代表者)によれば,同証人は,原告とは20年来の取引関係にあり,本件事業年度当時原告の下請け業者の親睦団体である稲建会の会長を務め,原告代表者とは特に深い関係にあったものであり,また,後記(3)の吉野満による調査の際も業界の慣習として親会社の意に反することはできないし,親会社の意に反する内容の文書には署名押印できない旨発言していること,同証人は,原告が前事業年度において架空の外注費を計上して法人税の支払いを免れることを計画したのに対し,これに応じて手形を受け取り,取り立てをして額面の9割を現金で返還し,架空の請求書を原告に交付するなどして原告の脱税に協力したことが認められる。
(2) 同証人は,当裁判所において,原告担当者から別表二の2,5記載の各手形の交付の趣旨の説明を受けた時期について極めてあいまいな証言しかしていない。
(3) 証拠(乙42,証人吉野満)によれば,原告が裏金を作るために清水次郎を含めた外注先に架空の外注費の請求書を提出させたうえ,手形で支払いをし,その手形金支払後10%程度の手数料を控除した残りの全額を原告に返還させたこと及び単価の訂正はなかったことが認められる。
前記(1),(2)の事情を考慮すれば,証人清水次郎の当裁判所における証言は,右(3)の認定事実に照らして直ちに信用しがたいものといわなければならない。
(三)証人岩田惣三郎の証言について
証人岩田惣三郎は当裁判所において一応原告の主張に沿うが如き証言をしているが,次のとおり信用できない。
(1) 証拠(乙5,証人岩田惣三郎,同吉野満,原告代表者)によれば,同証人は,原告とは12,3年前から現在まで取引関係にあること,同証人は,原告が前事業年度において架空の外注費を計上して法人税の支払いを免れることを計画したのに対し,これに応じて手形を受け取り,取り立てをして額面の9割を現金で返還するなどして原告の脱税に協力したこと,それにもかかわらず,吉野満が,昭和62年6月2日及び7月1日同証人から事情を聴取した際及び当裁判所での証言でも,右の点についてあいまいな供述を繰り返して結局明確な供述をしなかったことが認められる。
(2) 同証人は,当裁判所において,原告から同証人に対する下請代金の支払方法や原告から同証人に交付された各手形の趣旨に関して極めてあいまいな証言しかせず,また,昭和58年3月20日,4月20日満期の手形は工事代金に充当したと証言しながらどの工事の下請け代金として受け取ったものか回答できなかった。
(3) 証拠(乙5,証人吉野満)によれば,岩田惣三郎は,原告から単価の訂正を受けたことは一度もなかったことが認められる。
前記(1),(2)の事情を考慮すれば,証人岩田惣三郎の当裁判所における証言は,右(3)の認定事実に照らして直ちに信用しがたいものといわなければならない。
(四)注文書について
原告は,まず,本件単価調整後の低い単価に基づく注文書であるとして甲1の16,2の19,4の12を,また,当時の相当な単価ひいては本件単価調整前の真実の単価を推認させる趣旨で本件単価調整をおこなったと主張する外注先に対するほぼ同一時期の他の工事の注文書であるとして甲1の20,24,2の24,27,31,34,38,4の16,19,22,24をそれぞれ提出している。
しかしながら,右注文書は,以下のとおりその内容が信用できないか又は内容が真実であったとしてもこれによって直ちに原告主張の事実を推認することはできない。
(1) 本件単価調整後の注文書について
イ まず,甲1の16(原告の岩田金男に対する注文書(控))は,その作成日付が昭和58年10月6日になっているが,これは,甲1の14により認められる工期(昭和58年5月20日)の後である。
しかも,原告代表者は,当裁判所において当初右作成日付において作成した注文書であると供述し,その後最近になって作成したことを認め,しかもその作成資料についての供述は著しく矛盾変遷している(平成元年4月27日付調書,同年8月3日付調書,同年12月21日付調書)。
ロ 甲2の19(原告の清水工務店こと清水次郎に対する注文書(控))は,その作成日付が昭和58年3月26日になっているが,これは,乙25により認められる清水次郎が工事を始めた昭和57年7月の後であることが明らかである。しかも,原告代表者は,当裁判所において原告代表者尋問の直前になって作成したことを認め,しかもその作成資料が存在しないことを認めている(平成元年8月3日付調書)。
ハ 甲4の12(原告の今村組に対する注文書(控))は,その作成日付が昭和58年10月6日になっているが,これについても,原告代表者は,当裁判所において,右時期は今村が工事を始めた後であり,しかも,右作成日付よりさらに後になって作成したものであることを認めている(平成元年12月21日付調書)。
右のとおり,原告が本件単価調整後の注文書であるとして提出した証書は,いずれも本件訴訟のために作成されたものであるといわざるをえず,原告代表者がこれらの作成資料ないし根拠について何ら首肯しうる供述をしない以上,その内容は直ちに信用できない。
(2) 本件単価調整前の正当な単価を推認させる注文書について
イ 注文書は,注文者の請負人に対する請負契約の申込書であるから,本来であれば請負人が請負工事を始める前に作成されるべきものであるところ,右注文書のうち甲1の20,2の27,4の19,4の22の各作成日付は,それぞれ,甲6(原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる。),乙27,27,28により認められる各請負人が当該工事を始めた後である。
また,原告代表者は,当裁判所において,再三,注文書はあったりなかったりする,口約束で仕事をする,日付はいろいろ変わってくる等と供述している(平成元年8月3日付調書,同年12月21日付調書)。
以上の点からすれば,右注文書は後日本件訴訟のために作成されたものであると認められるからその内容は直ちに信用できない。
さらに,仮に右注文書が真実の契約内容を記載したものであるとしても,右注文書に記載された単価は様々であるから,それによって原告代表者が本件単価調整前の単価であると供述する単価が当時の相当な単価であったと直ちに推認することはできない。
(五)以上のとおり,原告代表者尋問の結果,証人清水次郎及び同岩田惣三郎の各証言,原告提出の右注文書はいずれも信用できず,他に前記事実上の推定を覆すに足りる証拠はない。
四 以上のとおりであるから,原告の本件事業年度の所得金額は金13,678,151円であると認められる。
したがって,右金額の範囲内でなされた本件更正処分には何ら違法な点はない。
また前記第二,一5記載の架空の従業員に対する給料支払の事実は,国税通則法68条1項所定の事実の仮装に該当するものというべきであるから,本件更正処分により新たに納付すべきに至った税額を前提としてなされた重加算税の賦課決定処分にも何ら違法な点はない。
五 よって,原告の本訴請求のうち所得金額6,921,519円を超えない部分の取消を求める部分は不適法であるからこれを却下し,右金額を超える部分の取消を求める部分は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法89条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋爽一郎 裁判官 橋本勝利 裁判官 多見谷寿郎)
<以下省略>